プロレスファンなら誰もが知るステーキの人気店、「ミスターデンジャー」。
店の中に入ると、情報量の多さにドキドキしてくる。
店名の「ミスターデンジャー」は元プロレスラーでもあるオーナーの現役時代の異名そのまま。直訳すると「危険な男」だが、この亀戸の地に店を構えて22年間、並大抵ではない精神力で厨房に立ち続けたオーナーの松永光弘さんを一言であらわすなら「努力の男」だろう。
ステーキ屋の仕事は決して楽ではない。20kg、30kgという量の肉を仕入れて、”客に出せる状態にする”作業は過酷そのものだ。
「これまでも後輩のレスラー達が飲食店をやりたいって店の見学にきたことはあるんですよ。みんな、ウチの仕事を見てステーキ屋をあきらめる」
そう語る松永さんは目を細めていた。体力自慢のプロレスラーですら、一目で頓挫するほどの作業量なのだ。
そんな過酷な作業にも関わらず、休みをとらずにほぼ毎日この店で働いてきた。現役時代にはデスマッチを終えたばかりの傷だらけの体で厨房に立つことも当たり前だったという。身体を酷使し続けた22年間のルーチンワークの果てに、とうとう今年の夏には過労で倒れ「久しぶりの休暇」となった。
そんな松永さんが長年、苦楽を共にしてきた歴史あるステーキ屋がここ、「ミスターデンジャー」なのである。
多くの肉好きとプロレスファンに愛された店
店の内装は、松永さんとプロレスラー「ミスターデンジャー」の歴史そのものだ。
当時のポスターに週刊プロレス。デスマッチ好きのプロレスファンには堪らない。
プロレスにあまり詳しくない読者の方のために説明すると、この店のオーナーである松永光弘さんは伝説的なプロレスラーだ。それもただのプロレスラーではない。有刺鉄線ロープ、電流、爆破、凶器攻撃、なんでもありのデスマッチを好み、数々の猛者と戦い続けた。試合のたびに自分も相手も大流血となる、過激なプロレスを披露し続けた。
とりわけ伝説となったのは、後楽園ホールのバルコニーから対戦相手の頭上をめがけて飛び降りた「バルコニーダイブ」。
高さはマンションの3階相当。無論、飛んだ先に待ち受けるのは安全マットなど敷いていない、硬い床だ。受け身に失敗すれば命の危険もあっただろう。そして万が一にも、この技が直撃すれば対戦相手の命も危険だったはずだ。それにも関わらず、当時の松永さんはまったく躊躇もせず、恐怖も感じずにダイブを決行した。
それ以来、ついた異名が「ミスターデンジャー」である。
これが自慢のデンジャーステーキ、1ポンド!
そんな松永さんは現在、毎日のように厨房に立って肉を焼く。
この店の看板メニューであるデンジャーステーキは多くの肉好きを唸らせると評判だ。
ニンニクをたっぷりとまぶし、スパイスをふりかける。
焼き方もレアからウェルダンまで注文できるが、松永さんのオススメはやはり「レア」だ。肉の旨味が一番、味わえるのだという。
さて、この肉がまず、特殊である。
デンジャーステーキに使用される肉は牛一頭からわずか2kgしか取れない赤身肉、”ハンギングテンダー”だ。
ちなみにデンジャーステーキの他にはハンバーグがあるが、いずれにしても価格設定がとにかく安い。
希少な肉であるはずの”ハンギングテンダー”のステーキが、なぜ安く提供できるのか。その秘密は松永さん本人に聞くしかないだろう。
そしてこれが!!!
1ポンド(約450g)のデンジャーステーキだ。ライスとスープが付いて2,550円という価格。
ニンニクとバターとレアに焼けた肉の香りが堪らなく食欲を刺激する。これは匂いを嗅いだだけでも、ある意味デンジャーである。
肉の旨さに改めて気がつける味
一口、食べた。
まず、何よりも肉を噛んだ時の圧倒的な違和感に驚くだろう。
「めちゃめちゃ柔らかくてジューシー」
なのだ。例えるなら、なんだろう。ホロホロに煮込まれた牛すじ肉が近いだろうか? この赤身肉のビジュアルを見て、この柔らかさを想像できる人間はなかなかいないと思う。間違いなく、柔らかくするための秘密が隠されている。
そして噛むほどに口に広がる肉の濃い旨味。脂じゃない。肉の味だ。圧倒的に美味い赤身肉の味なのだ。
なるほど、と思った。だからこそ、これだけの量のニンニクとタンデムできるのだ。普通の肉じゃ、ニンニクの強い風味に負ける。
日本の霜降り肉に否定的なアメリカ人にこのステーキを食べさせたい。きっと満足するであろう、本当に美味い肉だ。
ソースは全部で6種類。甘口、辛口、酸味あり、さっぱり、味のバリエーションがとにかく豊富だ。
どのソースも抜群にデンジャーステーキの肉質に合うが、一番人気は「甘口」とのことだ。(個人的にはごまみそ酢がめちゃくちゃ美味かった)
それにしても美味くて安い「デンジャーステーキ」である。なぜ、この肉が1ポンド2千円台で食べられるのか?
不思議だ。
わからないことはオーナーに直接、聞いてみようではないか!
という訳で、次回は松永さんにこのステーキの味の秘密と、このお店の歴史について色々とインタビューさせていただく。
Edit by カメイドタートルズ編集部