卓球のできる町中華屋「佳名℃(カメイド)」。
店名が「夜露死苦」宜しく、亀戸を「佳名℃」に当て字しているという理由だけで、店主をヤンキー呼ばわりしてしまったのが前回。しかし、実際はすごく優しい方であることがわかりカメイドタートルズ取材班は拍子抜けしていたところである。
「ちなみに、店主さんはどれくらい卓球をやっていたんですか?」
「ほとんどやっていません。遊びでやっていたくらい」
「卓球の本場、中国でいうところの遊びは、それもう本気ちゃうの?」
「いや、卓球は日本に来てから始めたので・・・」
「え?日本に来てから?へ〜・・・」
一同「(え?℃素人じゃない???)」
「あの、こっちが勝ったらタダにしてもらってもいいですか?」
「いや、だからダメです」
かたや芸能界の卓球大会で準優勝をした実績を持つ岡田氏と、料理の片手間、ほとんど遊びでやってるど素人。やる前から勝敗がついているようなもの。ヤンキーじゃないだけならまだしも、卓球もほとんどできないとなると、書くことが料理が美味しいということ以外になくなってしまう。
一抹の不安を抱えながらも、とりあえず立ち会ってもらうことにした。
「タダや、タダや、タダ飯や!!」
さすが卓球名人と言ったことろか。ユニフォームに着替えるとそれらしく見えるから不思議である。まずは腕試しの簡単なラリーからやってもらうことにした。
どうせラリーも続かないのだろう。誰もがそう思っていた・・・しかし。
「あれ、うまいな・・・」
「まぁ、ラリーですから。ラリーなんてム〇クでもできますから」
「最近のム〇クってガ〇ャピンに負けず劣らず、すごいんだけどね」
当初、舐めてた岡田氏の顔が曇り始めた。
いよいよ対決
ついに試合である。
両者ジャンケンで先攻後攻を決め、戦いの火蓋が切って落とされた。
「なんて、こなれたサーブなんだ!!!!!」
先ほどのラリーとは明らかに違う店主のプレイによって、その場の空気が変容していく。
卓球とはマウントの取り合いである。いかに自分ができるかをアピールすることで相手を牽制するのだ。
舐めていた・・・。
日本に来てから適当に遊びで始めた人に負けるはずはない・・・岡田氏はそう思っていた。インターハイ出場、芸能人卓球大会で準優勝・・・チラつくエリートのプライド。
「ぬ!あれは!!!!」
何かに気がついた様子の岡田氏。
「そういうことだったのか!!!」
「どうしたんですか?」
「店主の手首のスナップを見てくれ!!」
「まるで中華鍋でチャーハンを作る時と一緒じゃないか!!」
さすが中国。ワックスをかけながらカンフーを習得する「ベストキッド」の世界線である。
「そうか!店主さんは日々料理を作ると同時に、まさに卓球の修行をしていたのか!!」
そのことに気がついてから、岡田氏の様子も変わっていった。
「おおお!!!なんだそのトリッキーなサーブは!!!!」
「がんばれ!!両者がんばれ!!二人ともがんばれ!!!」
勝敗をつけるのはいけないと叩き込まれてきた、ゆとり世代ゆえに両者を応援しているわけではない。彼らの戦う姿に、国も試合も勝敗をも超えた心のラリーを感じずにはいられなかったのだ。
そして・・・。
「よっしゃタダや!!!!飯代浮いた!!!」
という岡田氏の叫びとともに試合は終了した。
「いや、タダにはしません」という店主の声も届かぬところで「タダや!タダや!よっしゃぁぁ!!」と聞く耳を持たずに叫ぶ岡田氏。店主も岡田氏の勢いに負けて思わずタダにしようとした、その時だった。
「あんたのラケット見せてみな!!」
「あんたなんや!」
「あたいは、この人の嫁だよ。あんたのラケット1万円以上するんじゃないの?うちのラケットは800円」
なんと、岡田のラケットは自分用にカスタマイズされた高級ラケットだったのだ。
「これって・・・ドーピング?」
「いや、普通のことだから!!!」
「もう一度、同じラケットで勝負しな。もし、それでもあんたが勝ったら・・・」
「タダやな」
「いや、タダにはしない。最初からタダにするなんて言っていない」
「岡田さん、私が払うんで大丈夫ですよ」
「よっしゃタダや!!!このままズルしたと思われて勝っても気持ち悪いからな。やったるわ!」
最終決戦
ひっそりたたずむ亀戸の中華料理屋「佳名℃」。新型コロナウイルスの影響で宴会のお客は減った。緊急事態宣言中はランチタイムのみの営業となった。そんな、寂しい思いを抱える夫婦がお店を切り盛りしていた。
「何年くらい、こちらでやられているんですか?」
「7年くらいですかね」
「なぜ亀戸にお店を開いたのですか?」
「野菜も安いし、仕入れ先と近いっていうので決めましたね」
元々は学校や家族の集まりなどの宴会で賑わっていた佳名℃。大人が食事とお酒を楽しんでいる間、子どもは卓球を楽しむといった光景が広がっていたという。
「コロナで客足が遠のいてしまって大変ですよ」
と笑いながらご主人は語っていた。今はランチ営業とテイクアウトで凌いでいる。
「そうね。経営的には大変ね。だからね・・・」
「絶対にタダになんかさせないわよ!」
先ほどのご主人との一戦とは比べ物にならないほどの迫力である。
「こちとら家賃3万7千円じゃ!!!!」
岡田も負けてはいない。
「私が出すって言ってる!!!」
「爆笑問題は好きですか!!??」
そういう回じゃないんだって!
「人として面白いから好きです!!」
答えなくていいって!
「妻ぁ!!!」
「くそぉぉぉ!!!!!!!」
この悔しがり方、本気と書いて「マジ」である。
「がんばれ!!二人ともがんばれ!!ずっとずっと頑張り続けろ!!!」
これは、リベラルな教育の果てに、勝負という感覚が欠落したゆとり世代的応援ではない。きっと祈りなんだと思う。本気で戦う二人に少しでもあやかりたかったのだ。
沈鬱な時代をものともせずに、大人達が本気で生きればもっとこの国は良くなるのかもしれない。私が発した応援は、彼らに向けられたものであるが、自分の中にも響いていた。
「そうだ、私。がんばれ!」
悔しがる中華料理屋の女将と、日銭を稼ぐ家賃3万7千円の芸人YouTuber。
そんな本気の瞬間に、私はたくさん出会いたくなった。コロナ禍を言い訳に、いつまでも会社にコバンザメのようにすがっている自分がちっぽけに思えたのだ。
「よし、会社を辞めよう」
私は二人の試合を見つめながら、そんな決意を胸に抱き、電話をかけた。
「もしもし、編集長」
「もしもし。取材の方はどうかな?」
「あの、私・・・」
「あ、そうそう。今、君の書いた記事を読んでいたんだけどさ、どれも面白いね。今までちゃんと気がつけなくてごめんよ」
「え?あ、ありがとうございます」
「で、どうしたの?」
「あ、いや。はははっ!!・・なんかお土産買ってきますね」
試合は、女将さんの逆転勝利で幕が下りた。私は今あるべき場所で、とりあえず本気でがんばってみよう。
これからもカメイドタートルズを、
ね!
スポット紹介
住所:〒136-0071 東京都江東区亀戸5丁目5-6 ラポスタビル101号
電話番号:03-3685-5221
アクセス:JR総武線亀戸駅 徒歩5分
営業時間:11:00~15:00 17:00~23:00(L.O.22:30)
定休日:日曜日(宴会時のみ営業)
Edit by カメイドタートルズ編集部