ひょんなことから現代にタイムスリップしてしまった武士、亀助。
まるで別世界の現代に驚きながらも、亀戸を散策する。しかし、孤独感に襲われる。
そんな絶望の中、一つの看板を見つける。それは己を表す「侍」を掲げたお店である「珈琲道場 侍」だった。
孤独の中、現代にタイムスリップしてから唯一の安らぎを見つけた亀助。その顔は自然と笑顔になっていた。前回の記事はこちら。
「こぉひぃなぞ、拙者の時代にはなかったでござる」
「江戸時代初期ごろに伝来したと言われていますが、広く普及したのはもっと後でしょう」
「店主よここは茶屋でござろう?団子か何かを出してはくれぬか?」
「団子はございませんが、食べ物はお出しできますよ」
そう言って店長はメニューを亀助に差し出した。見慣れないメニューばかりの亀助だったが、侍・殿様・将軍の文字が気になった。
「殿様に将軍!?そんな名前が付いたものを、口にしたら切腹させられるかもしれないでござる・・・。この侍を頼むでござる」
「侍ビーフシチュードリアでございますね。少々お待ちください」
「びぃふしちぅ・・・?まぁ侍が入っていれば大丈夫でござろう!」
「異国から伝わった、牛の煮込み料理でございます」
「牛じゃと!食べていいのかそんなもの!それと店主、席を移しても良いでござるか?この席だと刀を立てかけれないでござる」
「でしたら、あちらのテーブル席をお使いください」
席を移して珈琲を嗜む。亀助の時代には広まっていなかった珈琲だが、随分と気に入った様子。
「茶も好きだが、この珈琲というのも悪くないな!他の種類にも興味が湧いてきたでござる。店主、ビーフシチューと一緒におすすめの珈琲をいただきたいでござる」
「承知いたしました」
「それにしても珈琲道場とは、思い切った名前を付けたでござるな」
「実はオーナーが合気道の道場をやっておりまして、礼儀は接客と武道に通ずるものがあるとして名付けたそうです。内装も名前に合わせて和風に仕上げております」
「それで、あの斬りかかった甲冑があったわけでござるな。ここに入って懐かしさを感じたのは、内装のせいでござるな!」
「また、置いているロッキングチェアにも意味があるんです。武道の心得にある『崩し』。気持ちを『崩して欲しい』という願いを込め、リラックスできるロッキングチェアを置いています」
そんな話をしていると、注文していた「水出しアイスコーヒー」が届いた。
「先に珈琲をお出しさせていただきます。こちらも、おすすめメニューの水出しコーヒーでございます」
「かたじけない。豪華にも氷が入っているのでござるな!はて、この横のはなんでござるか?」
「ガムシロップとミルクでございます。砂糖とはまた違った味わいになるので、是非お試しください」
「ふむ、両方よく分からん!だがそれもまた一興でござろう」
「いざ、尋常に・・・」
「あっぱれでござる!是非とも将軍様に献上したいほどの味じゃ」
「お待たせいたしました。こちら、侍ビーフシチュードリアでございます」
熱々のビーフシチュードリアが運ばれてきた。
「いざ牛を切り伏せん!」
「こりゃ馳走に違いない!殿様や将軍といった品書きもあったが、そちらは更に馳走なのか・・・」
時代は違えど、人間は美味しいと感じた時、自然と笑顔になってしまうものだ。
「異国からこんなものが伝わるなら、開国も悪くなさそうでござるな!それと先程から気になっていたのだが、その張り紙、どういう意味でござるか?」
それは店内に張り出されていた言葉だった。一見、ただの張り紙のように思えるが、武道の心得を話していたからこそ、深い意味を感じさせた。
「漢字の通り『難が有る』と書いて『ありがとう』という感謝の言葉になるんです。普通では起こり得難いことが起きた時、それに感謝するべきで、その難を越えた時に人間は成長するという意味です」
「・・・これまた天晴れな思想でござるな・・・」
まるで、亀助の状態を表しているようだった。ひょんなことから時代を跨ぎ、現代に来てしまった亀助。孤独の末にたどり着いた珈琲道場 侍にて、新たな考えに至りけり。この言葉が亀助にどんな影響を与えたかは本人にしかわからない。ただ、その顔はどこか晴れやかだった。
「さて支払いだが、これで足りるでござるか?釣りはいらんでござるよ。色々勉強させてもらったでござるから・・・!」
「小判での支払いは受け付けておりません!」
「えっ」
スポット紹介
スポット名:珈琲道場 侍
住所:〒136-0071 東京都江東区亀戸6丁目57−22 サンポービル 2F
アクセス:JR総武線「亀戸」駅 東口より徒歩30秒
営業時間:8時~24時 日曜定休日
Edit by カメイドタートルズ編集部