たくさんの人々に愛され、惜しまれながらも閉館していった伝説の施設、「サンストリート亀戸」(通称:サンスト)の思い出を振り返るインタビュー記事シリーズ。
これまでに、サンストの元館長である会田さんや、名物スタッフの藤吉さんに話を聞いてきました。
ちなみに前回は、サンストでイベント運営に携わっていた藤吉さんに「サンスト流のイベント運用術」について色々とお聞きしようとしたのですが
カメイドタートルズ取材班がついうっかり、Perfumeの話に夢中になりすぎて、詳細な話を聞くことができませんでした。
延長戦ということで、今回は肝心の「サンスト流のイベント運用術」についてお聞きしていきたいと思います。
サンスト流のイベント運用術とは
※ビルの屋上が寒かったので、今回から会田さんと藤吉さんの2人に、お部屋でお話をお聞きしています。
–それでは改めて、よろしくお願いします。
(藤吉さん)
よろしくお願いします。
–「イベントといえばサンストリート 」ということで、前回はサンストライブの話を中心にお聞きしましたが、ライブ以外のイベントもやっていたんですよね。
(藤吉さん)
そりゃもう、色々とやっていました。亀戸といえば大道芸が有名ですけど、サンストでも大道芸はやっていたんですよ。ただ、同じ大道芸でも「ウケる演目」と「ウケない演目」があり、私たちスタッフは常にお客さんの反応に目を光らせているんです。
失敗と成功を重ねる中で、イベントを企画する際のポイントとしては「地域」「空間」「客層」それぞれの点において、見合った内容のものを提供することが大切だということを学びました。例えば子ども連れのファミリー層が多いサンストでは、「高尚なパントマイム」よりも「バルーンで色々なものを作る芸」の方がウケるんです。午前の時点でお客さんの反応を見て、鈍いと感じたら午後からは子ども向けのパフォーマーと入れ替える、といった判断を現場ですることもありました。
–現場で臨機応変に対応できるのはすごいですね。
(藤吉さん)
「サンスト流」がうまくいった特徴の一つとして、担当スタッフにある程度の権限が与えられていた、というのは大きいと思います。何かを決定し、すぐ行動に移すまでのスピードが早かったですよね。現場のスタッフは直にお客さんの話に耳を傾けているので、お客さんが求めるものを一番、わかっているんです。
普通のイベント運営会社ならば、イベントの企画や出演者へのギャラの支払いなど社内稟議を通さないと話が進まないと思います。でも、私たちの体制では担当者にそういった権限が委譲されていたんです。なので、かなり機動力があるというか、フレキシブルに対応できるチームだったと思います。
サンストが考える、3つのイベントタイプ
–イベントは休まず、毎日行っていたのですか?
(藤吉さん)
はい。1年中、盆も正月もイベントをやっていました。年間でおよそ600本(1日平均1.64本)のイベントを開催していたのですが、他の商業施設と比べても圧倒的な頻度だったかと思います。なぜそんなことが可能なのかと言いますと、代理店任せにせず、年間を通してほぼ全てのイベントを自分たちで仕切っていたからなんですね。
その中で重要だったことは、イベントタイプを3つに分けながら年間のスケジュールを組み立てていったことです。
–イベントタイプを3つに分けるとは?
(藤吉さん)
①出演者招聘イベントなどの「出費型」
②タイアップ、新人タレントキャンペーンなどの「無償型」
③モーターショー、新製品発表会、移動販売車などの「収入型」
の3つにイベントタイプを分類していました。
①については、人気キャラクターのショーや有名人が出演するイベントなど、話題性があってお客さんへ与えるインパクトが強いイベントですよね。しかし、かなりコストがかかるので、こういったイベントは主軸にはできません。
そこで、サンストの主力イベントとなったのが②の無償型なんです。具体的にはテナントや企業、地域行政などとタイアップして開催されるイベントで、例えば地元の結婚式場とタイアップして、無償で式場のエレクトーン奏者の演奏会を誘致するとか。無償でも、結婚式場にとっては施設PRになるし、双方にメリットがあるんですよね。
新人タレント、新人アーティストの発掘企画である「サンストライブ」も、出演者は無償で参加していただいてました。サンストのステージに上がることがメリットになるんです。
お金がかかるイベントだけでなく、アイディアによって無料で出来るイベントの数を増やすことで、コストを抑えながらたくさんのイベントを開催することができました。
そうやって数えきれないほどのイベントを開催し、広場にたくさんの人を集めたという実績があって、③のお金が稼げる収入型のイベントの依頼をいただけるようになっていったんです。
–なるべくお金をかけずに、楽しいイベントを作るというアイディア力が素晴らしいですね!
他にも、施設の広場を地元商店街に開放してワゴンセールイベントを実施したり、夏には恒例となる阿波踊りイベントなども開催し、たくさんの地元の人々に参加していただけました。「地域と協力して賑わいをつくる」という精神も、イベントづくりには大切だと思います。
サンストで働いていた時には、地元の方に話しかけられて「こんなイベントがやりたい」とか「老人会のために金券を発行して欲しい」といった相談をされることもあったり、かなりフランクに接してもらえることが多かったですね。お客さんとの距離が近く、話しかけやすいスタッフでいられたことは良かったと思います。
サンストのお客さんは優しい。女の子から花束をもらったエピソード
(藤吉さん)
そういえば私、お客さんから花束をいただいたことがあります。
–え? 運営スタッフである、藤吉さんが花束を?
(藤吉さん)
出演者でもない私が花束を貰えるなんて、不思議ですよね(笑) 花束をくれたのは高校生ぐらいの女の子だったんですけど、いきなりだったので最初はビックリしました。
「どうして花束をくれたんだろう?」
と、自分なりに色々と考えたんですけど、恐らく私が「毎日のようにイベント会場付近で駆け回っていた」のを見てくれていたんだと思います。それで、頑張ってイベントを運営してくれてありがとう、という意味でいただくことができたのかな、と。
–女の子は感謝の気持ちを伝えたかったんですね。藤吉さんが愛される名物スタッフだったから。
下町人情なんですね、きっと。亀戸の人って、みんな優しいんです。
イベントが終わって椅子を片付けている時、おばちゃんに話しかけられ、よくコーヒーやお茶をいただくことがありました。私だけじゃなくて、スタッフ全員分とか貰えることもあったり。サンストってそういう場所だったんですよ。ただの商業施設ではなく、公共の場というか、「自分たちが使ってる施設」という自覚が地元の人々に芽生えていたんだと思います。
昼間の時間にサンスト施設内を歩いていると「○○のトイレが詰まっていたよ」とか教えてくれたり(笑)
–サンストのスタッフとお客さんは距離が近く、良い関係性だったんですね。
本当にたくさんのイベントを開催してきましたけど、私たちが「賑わいづくり」という意識でイベントを考える上では、広場に集まってくれた一人ひとりのお客さんが全員、イベントの参加者であり協力者だったんですよね。買い物をしなくても、ただ、来てくれるだけで賑わいづくりに参加してもらってる大事な存在でした。人が集まるから色んなイベントが開催できるし、タイアップ企画とかたくさんのお話をいただけたわけですし。
本当にありがたいことでしたね。
次回予告
サンスト元館長の会田さん曰く、サンストが大成功した理由として、「イベント」と「テナントとのパートナーシップ」の2つが挙げられるとのことでした。
イベントが成功した秘訣については今回、藤吉さんからお話をお聞きすることができたので、次回は「テナントとのパートナーシップ」について会田さんに色々とお聞きしたいと思います。
テナントの付き合い方も、他の商業施設と一線を画すサンストリート亀戸。普段、なかなか聞くことがない「知られざるテナント物語」について触れていきたいと思います。
<次回へ続く>
Edit by カメイドタートルズ編集部